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その4
アメリカ企業の取り組み

 今回は、企業の社会貢献では長い歴史のあるアメリカ企業の例をご紹介しよう。そこにあるのは、まず<企業市民>として確固たる哲学に基づいた、地域社会貢献への取り組みである。他方、それが、企業活動を遂行する上でいったん社会との軋轢を生むような場合、企業の“防波堤”となる例なども、示されている。開かれた企業社会の中で、明確な位置付けのもとに遂行されるアメリカの社会貢献活動。パチンコ産業にも、多くの学ぶべき点がありそうだ──。

社員の発案がきっかけ
リーバイスのエイズ予防・啓発キャンペーン

 若者の間で人気のジーンズメーカー、リーバイ・ストラウス。その日本法人であるリーバイ・ストラウスジャパンでは、90年代後半からエイズ予防・啓発キャンペーンを展開している。毎年、世界エイズデーの12月1日前後には新宿や銀座の街頭でリーバイスのロゴ入りコンドームを配布したり、今年から多数の若者が集まる音楽イベント「フジロックフェスティバル」の会場でも同様の活動を展開。今年4月には、「リーバイスは若者を救うためにエイズと戦う」という英語のロゴ入りTシャツの販売を始めた。同社広報部の雨宮恵二氏が、その背景を話す。

 

 「日本は、先進国の中では唯一、エイズの新規感染者が増加しており、20代の若者の感染も増加しています。そこで、とくに若者に知名度の高い当社のブランド力を生かして、エイズへの意識を高め、少しでも被害拡大を防げればと商品を通してメッセージを送ることにしました」

 

 一部の店舗には『日本エイズストップ基金』への募金箱を設置して、来店する若者のエイズへの意識を高めようと努めている。なるほど、政府の広報には耳を傾けない若者でも、自分の好きなブランドからの呼びかけは素直に聞き入れるかもしれない。同社の取り組みに寄せられる期待は大きい。

 

 そもそもリーバイ・ストラウス社は、1853年の設立以来、アメリカでも最も社会的な意識の高い企業の一つとして、その名を知られてきた。とりわけエイズへの取り組みは積極的で、現在、世界各国の現地法人を通して、それぞれの国情に合わせたエイズ撲滅キャンペーンを展開している。

 

 同社のエイズに対する取り組みは、サンフランシスコ本社に勤務する社員の提言から始まった。サンフランシスコには同性愛者が多いことから、人口当たりのエイズ感染者の数はアメリカ最多といわれている。80年代前半、アメリカ国内でエイズが社会問題化され始めた頃には、同社の社員にも感染者が現れ始めていた。しかし、当時は、まだまだエイズを正しく理解する人は少なく、感染者が不当な偏見や差別を受ける危険性も否定できない状況だったという。

 

 そうした状況に危機感を持った社員が、幹部に対して、会社が立ち上がってエイズ対策に取り組んではどうかと訴えかけた。その声は即座に聞き入れられ、以後、リーバイ・ストラウスでは、エイズに関する正しい知識の普及や感染拡大防止を目的として、チラシ配布やセミナーへの協力など、独自の活動を展開していく。その一環として作成された研修用のビデオは評判を呼んで、他企業での研修にも使われるようになり、日本語版も作成された。

 

 「エイズへの取り組みのほかにも、環境保護をはじめ、各国それぞれが抱える問題にアプローチしています。そうした活動を通して地域の活性化を図ることは、その社会の一員である当社の発展にも繋がると考えています」(雨宮氏)
 と、同社は胸を張る。

地元企業が、地元の環境を守る
アメリカで盛んな「アダプト制度」

 リーバイ・ストラウス社のエイズ予防・啓発キャンペーンが表しているように、アメリカ企業は地域社会との繋がりを非常に大切にし、経営的にも最重要事項の一つと考えている。そうした活動のバックボーンになっているのが「企業市民(Cooperate Citizen)」という考え方だ。『企業市民の時代』(日本経済新聞社)などの著書のある神奈川大学教授の松岡紀雄氏が解説する。

 

「市民とは、つねに自分が暮らす地域社会が抱える問題を考え、それに対して具体的なアプローチを講じようとする個人を指した言葉です。その意味で、企業も自社の利益だけを求めるのではなく、地域社会との共存・共栄を図るためのアクションを積極的にとるべきだ、そんな考えから『企業市民』という言葉は生まれました」

 

 そうしたアメリカの企業風土を示す好例として、松岡氏は80年代にアメリカのテキサス州で始まり、全米へと広がっていった「アダプト・ア・ハイウエー制度」をあげる。これは、ハイウエーの美化を図るために、道を区切って、各区間の清掃を個人や企業などが引き受ける制度。「アダプト」には「養子縁組」という意味があり、各区間は賛同した企業の「養子」と見なされ、ボランティアで美化が進められる。おもに自社がオフィスを構えるエリアを中心に多くの企業がこの試みに賛同しており、各区間には、それぞれの企業名を記した看板も立てられ、企業のイメージアップにも一役買っている。

 

 そもそもアダプト制度は、学力低下に悩む学校を対象とした活動から始まった。企業が「養子」とする学校に社員を派遣して課外授業を担当するなど、多角的なサポートに努めるといったものだ。とくに貧困地区などの学校には、授業進行がままならないほど荒廃の進んだケースも珍しくはない。そうした学校にとって、企業をはじめとした外部からのサポートは非常に有意義で、再生への足がかりになった例もある。

 

 カリフォルニア州のマウンテンビュー市は、各国からの移民が集まる地域である。そのエリアの、ある小学校では、校内に18の言語が入り乱れ、英語での授業進行が不可能に近く、言葉の壁に阻まれた生徒が不登校に陥るケースが続出していた。そこで、アフリカ系の女性校長が一計を案じた。地元企業に対し、社員をボランティアとして学校に派遣して、生徒に英語やスポーツを教えてくれないかと応援を頼んだ。その声に応じたのが、日系のNECエレクトロニクスだった。校長は感謝の意を込め、同社のロゴの入ったTシャツを着用して執務に臨んだという。

 

 ところが、そこでトラブルが生じた。生徒の中に同社のライバル企業の社員の子どもがおり、校長の態度が特定企業の宣伝に当たるとの批判が寄せられたのだ。しかし、校長は「何社にも断られた中で、快く引き受けてくれたのはNECエレクトロニクスだけだった」と、その批判をはねのけ、毅然とした態度を崩さなかったという。

 

 日本でも、学級崩壊が社会問題化し、学力の低下が叫ばれている。国の将来を担う教育活動の充実化は、長い目で見れば企業の繁栄にも繋がる。それを見据えた米国企業の活動には学ぶところが大きい。

社員の9割がボランティアに従事
3Mの先進的な取り組み

 今や、どのオフィスでも見掛ける文具の「ポスト・イット」。その開発メーカーとして知られる3Mは、自社の「企業市民」としての役割を明確に宣言し、社をあげての寄付活動に力を入れる一方で、社員のボランティア活動を強力にサポートしていることでもよく知られている。社員の9割近くが何らかのボランティア活動に関わっているというから、その先進的な取り組みぶりは推して知るべしである。

 

 その3Mの活動の一つに「ミールズ・オン・ウィールズ」(Meals on Wheels)と呼ばれるものがある。これは地域の高齢者への食事の配達ボランティアで、社員の有志が昼休みを利用して実施している。この活動では、単に食事を配るだけではなく、高齢者の要望を聞き入れ、困り事があれば、その相談にも応じている。そうした姿勢は、とりわけ独居の高齢者に評判が高い。こうした社員の活動に対し、3Mはガソリン代を援助する形でバックアップしている。

 

 3Mでは、社員個人のボランティア活動は、社内報での報告や表彰を通して評価しているが、表彰時の賞金は本人がボランティア活動を通して貢献した先に贈られる、という。

 

「会社としても、社員個人が問題意識を持ち、アクションを起こした対象に向けてサポートしようという計らいです。社員のボランティアに対する士気を高めるために、導入する企業が増えてきています」(松岡氏)

活動内容を大々的にアピール
最大限の効果を得るアメリカ企業

 日本社会では、これまで社会貢献は「陰徳」として捉えられる傾向があり、あまり表立ってはアピールしない傾向が強かった。パチンコ業界の社会貢献にも、そうした意識は見受けられる。しかし、アメリカ企業は正反対の考えを持つ。社会福祉法人さぽうと21理事長の吹浦忠正氏(日遊協理事)は、こう話す。

 

「アメリカのカジノのホームページを開くと、これでもかというぐらいに社会貢献の事例が列挙され、一見、何をやっている企業のページなのか分からなくなってしまうほどです。読み進めると、最後に、『こうした活動をしているのが、私たち、○○会社です』というクレジットが入っているんですね。費用対効果といったら語弊があるかもしれませんが、実際に行った貢献活動の効果を最大限に引き出そうという戦略が、そこにはあります」

 

 知られなければ意味がない。そんな考え方が根底にあるわけだ。それにしても、日本企業が自らの活動をアピールすることに逡巡するのは、果たして「陰徳」という価値観だけなのだろうか。それだけではなく、大々的に公表することで他団体からの援助要請が殺到することが、その消極的な姿勢に繋がっている、とも言う。欧米の社会貢献事情に詳しく、『アメリカ・フィランソロピー紀行』(TBSブリタニカ)などの著書のある、元サンデー毎日編集長で評論家の四方洋氏(日遊協の主催するパチンコ・パチスロ論文・作文コンクール審査委員長)はこう言う。

 

「もちろん、日米を問わずに、そうした要請は殺到しますが、日本企業の多くが対処の術を持ち合わせていないのが現状です。その点、アメリカ企業では、社内に審査会を設け、寄付の基準を細かく定めて公表し、それに該当しない要請に対してはきっぱり断るという態度を貫いています」

 

 たとえば、自社のオフィスがある地域で、社員の子どもが多く通っている学校に限定する、あるいは貧困問題を専門的に扱う団体に限定する、といった基準を設け、予めそれを公表する。それが最もフェアな方法で、なおかつ効果的な貢献を行うためには不可欠だという考えがそこにはある。

 

 トヨタ自動車が、アメリカのケンタッキー州のジョージタウンに工場を設けたとき、それこそ地元の大学から名も知らぬ団体まで、大量の寄付依頼が寄せられた。そこで同社では、現地社員のアドバイスなどを参考に、地域社会に対して最大限に効果を生み出すための寄付方法の審査に入った。結果、寄付金は小分けをせずに一か所にまとめる方がインパクトがあるということになり、ジョージタウン大学の図書館に対して100万ドルを寄付することになったそうだ。その決め手となったのは、大学の図書館が市民にも開放されており、地域社会への還元にもなると考えたからであるという。

 

「アメリカでは、寄付の受け手も広報活動に積極的なのが特徴です。トヨタ自動車のケースでも、大学側が地元メディアに対する宣伝活動に尽力し、その結果、メディアでも大きく取り上げられ、同社にも大きな反響が寄せられました」(四方氏)

地域住民との交流が醸成する
経営的なリスクマネージメント

 こうした広報活動は、企業経営のリスクマネージメントとしても大きな効果を生み出すと四方氏はいう。
「日本国内で企業不祥事が多発していますが、そうした危機的な局面に立たされたときにこそ、その企業が本業以外にどのような活動を行ってきたかが問われます。日頃から、社会貢献活動に従事し、地域社会との共生関係を築いてきた企業であれば、それが再生への推進力になることも少なくありません」

 

 1987年、東芝がソ連に輸出した工作機械によって、ソ連の原子力潜水艦の探知が困難になったとして、いわゆる「ココム規制」への違反を激しく糾弾されたことがあった。折悪しく、日米間の貿易摩擦が激化し、ジャパン・バッシングが強まる風潮の中で、アメリカ国内のメディアはこぞって東芝を叩き、不買運動も展開された。

 

 そのさなかのある日曜日、東芝の現地工場が、多数の地域住民に取り囲まれた。が、それは東芝糾弾のための集会ではなく、東芝を守るための決起大会だったのである。住民たちは地元選出の上院議員や下院議員を呼び出し、議会で東芝の弾劾に賛成したら許さないとのシュプレヒコールをあげた。議員にとって最も大切なのは地元住民である。その声を聞き入れた議員たちが反対に回ったこともあり、結局、議会での弾劾採決は見送られた。

 

「当時の東芝の担当者に話を聞いたところ、現地では、ボランティア活動を通して、地域住民とのフェイス・トゥー・フェイスの交流を非常に大切にしていたということでした。そうした関係があったからこそ、地域住民が東芝の窮状を見て、真っ先に立ち上がってくれたのでしょう」(四方氏)

 

 前出の松岡氏も、IBMのケースを挙げて、社会貢献の及ぼすリスクマネージメントの効用を説く。

 

「IBMは世界的にも最大級の寄付金を計上する企業の一つです。不況に見舞われて赤字に陥った90年代前半にも、米国IBMの寄付総額は1年間に100億円を上回っています。そのIBMが工場の閉鎖を余儀なくされたことがあったのですが、そうしたケースでは、他の企業であれば反対運動が起こるものです。ところが、IBMの場合は、よほどの理由があったのだろうと皆が納得したというのですから、いかに地域との繋がりが大切かですね」

 

 あらゆる産業で企業競争が日増しに激化する今の時代、リスクマネージメントという側面を含め、社会貢献が醸成する企業イメージは、生き残りの鍵を握っているといえよう。サービス業であれ、メーカーであれ、企業間で本業のレベルが拮抗している場合、消費者がサービスや製品を選ぶ基準になるものは何か。多くの消費者にとって、企業イメージは、その有効な基準の一つになる。アメリカ企業に息づく「企業市民」という概念を考えるとき、パチンコ業界の現状を打破する道筋が見えてきそうである。